こんにちは、理学療法士のおとーちゃんです。
みなさん、「乳酸」と聞くとどんなイメージがありますか?
「運動したら乳酸がたまって、筋肉が痛くなるやつでしょ?」
「疲労物質でしょ?」
・・・なんて思っていたら、それ、実はもう古い常識なんです!
今日は、100年ものあいだ信じられてきた「乳酸=疲労物質」という誤解と、それが覆された「乳酸の真実」について、できるだけわかりやすくご紹介します。
◆ 昔の常識:「乳酸は疲労物質」
「運動すると筋肉に乳酸がたまって、それが疲労や筋肉痛の原因になる」
この考えは、20世紀初頭から長らく当たり前のように信じられてきました。
というのも、1900年代初めの研究で、運動中に酸素が足りないと筋肉の中に乳酸ができて、それが筋肉を酸性にする → 疲れる、というメカニズムが提唱されたかららしいんです。
その後、「酸素負債」や「コリ回路(乳酸→肝臓で糖に戻す)」といった理論が加わり、乳酸は“厄介な老廃物”とされてきたわけです。
◆ 新しい視点:「乳酸はエネルギーの仲介役だった!」
ところが1970年代、アメリカの研究者ジョージ・ブルックスさんが
「いや、乳酸って悪者じゃなくて、むしろエネルギー源じゃない?」
という衝撃的な研究を発表。
実際に、乳酸は運動中、筋肉だけでなく心臓や脳でもエネルギーとして使われていたんです!
さらに、「乳酸シャトル理論」という考え方も登場。
これは、
- 速筋でできた乳酸が、
- 血液にのって移動し、
- 心臓や遅筋、脳でエネルギーとして再利用される
という、「体内の乳酸リサイクルシステム」のようなもの。
つまり、乳酸は「ゴミ」じゃなくて「再利用できる燃料」だった、ということです。
◆ 乳酸が持つ4つのすごい力
今では、乳酸には次のような働きがあることがわかっています。
① エネルギーとして活躍!
乳酸は筋肉や心臓、脳でどんどん使われるエネルギー。
特に、心臓は乳酸を“おいしい燃料”として使っているほど。
② 糖を作る材料になる!
乳酸の一部は肝臓で「糖」に戻されて、筋肉や脳のエネルギー補給に。
これが「糖新生」ってやつです。
③ 酸性化を防ぐバッファー役
「乳酸=酸性にする」はもう古い!
実は、乳酸は逆に細胞の酸性化をやわらげてくれる“緩衝材”のような役目も。
④ シグナル物質としての役割
乳酸は「ラクトホルモン」とも呼ばれ、脂肪の燃焼や血管の成長、脳の働きにも関係。
筋トレで「強くなるスイッチ」としても働いているんです。
◆ 科学の進歩が変えた「乳酸」への見方
2000年代に入ると、
「乳酸って本当に疲労の原因?」
という疑問が一気に深まりました。
例えば、
- 筋肉の疲れの主な原因は“無機リン酸”である
- 乳酸はむしろ疲労を防ぐ働きをしている
といった研究が次々と登場。
その結果、「乳酸=疲労物質」という昔の説は否定され、「乳酸は重要なエネルギー物質であり、生体の味方」という新しい常識が広がったのです。
◆ 現代では“乳酸”を積極的に活用!
最近では、スポーツの現場や医療の現場でも、「乳酸をうまく活用しよう」という動きが増えています。
例えば、
- 高強度インターバルトレーニング(HIIT)では、乳酸を多く作って使うことで、持久力や回復力がアップ!
- 集中治療室の重症患者さんに乳酸を補うことで、回復をサポートする研究も進んでいます。
◆ 最後に:乳酸はもう「敵」じゃない!
長年「悪者」にされていた乳酸ですが、今ではむしろ“頼れる相棒”として再評価されています。
もちろん、筋肉疲労の仕組みは乳酸だけでは説明できません。
無機リン酸やカリウム、カルシウム、中枢神経の影響なども複雑に関わっています。
それでも、これまでの「乳酸=疲労物質」という思い込みを見直すことで、もっと正しく体のことを理解できるようになるはずです。
運動中に
「うわ、乳酸たまってる~!」
と思ったら、
「よしよし、今しっかりエネルギーをつなげてくれてるんだな」
と感謝してあげてください。笑
引用・参考文献一覧
この記事は最新の運動生理学や医療研究をもとに執筆しましたが、専門家の監修を受けたものではありません。
正確な知識やトレーニングへの応用については、医師・理学療法士・トレーナーなど専門家にご相談ください。
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